砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない(桜庭一樹) 読了
今回紹介する本は、直木賞作家の桜庭一樹さんの代表作です。もともとライトノベルとして出版されていたらしいのですが、僕が図書館で手に取ったのは、角川文庫から出版されているほうです。表紙は普通の絵で、萌え挿絵なども一切なかったので、ネットで調べるまでラノベだと気が付きませんでした。また、漫画にもなっているようですね。
とある町で暮らす中学二年の山田なぎさは、母親と兄の3人で貧しい暮らしを送っている女の子です。早く自立するためにはお金という「実弾」が必要と考え、中学卒業後は自衛隊に入隊しようと考えていました。そんな時、海野藻屑という女の子が都会から転校してきます。自称人魚で、常にミネラルウォーターをがぶ飲みし、片足を引きずりながら歩く奇妙な女の子は、クラスで浮いた存在になります。なぎさも最初は相手にしていませんでしたが、藻屑から何かとちょっかいをかけられているうちに、ともに過ごす時間が長くなります。しかし、同時に、藻屑の抱える闇の部分もだんだんと知ってしまいます。そして、事態は悲しい結末へ・・・
正直結構きっついです。笑
藻屑は、天然とかそういう次元ではなく、簡単に言うなら「電波なサイコ女」といった感じでしょう。どっかの河川敷の自称金星人なんか比になりません。てかあれは普通にかわいい。
なぎさもなぎさで報われません。大好きな兄は引きこもりだし、家事は全部一人でやらなきゃいけないし、初恋は邪魔されるし。この作品、幸せな人がほとんど出てこないんですよね。それぞれ何かしら不幸の種を抱えています。
そして何より、海野父のクズっぷり!!詳しくは自身の目で確かめてほしいのですが、nice boat.を彷彿とさせます。
僕が読んでいて、ぞっとしたやりとりがこちらです。
なぎさと藻屑が、ウサギ小屋で一緒にウサギの世話をしている場面です。
「山田なぎさは、うさぎの世話が好きなんだ」
「うん」
「兄の世話も好きなんだね」
「う、ん・・・・・・」
「山田なぎさは、飼育係」
なぎさは、学校では飼育係としてウサギの世話を毎日しています。家では、母親の代わりとして、家族全員の食事を作っています。もちろん兄の分も。
・・・なんか、ぞっとしませんか?僕はこのやり取りを読んだとき、胸がざわざわっとしました。うまく言葉にできないのですが、藻屑の闇を象徴したやり取りだと思います。
この本は、ライトノベルと銘打っておきながら、内容が全然ライトではありません。
また、「児童虐待」と、「引きこもり」という、社会問題にもなっている事柄が本作のテーマに据えられており、全体を通して、ただ残酷だったの一言では片づけられない、深く考えさせられる作品でした。
「重い作品が好きな人」「読んだ後に深く考えたい人」は、この本はお勧めです!
愚者のエンドロール(米澤穂信) 読了
今回は、先日ご紹介した「氷菓」から始まる「古典部シリーズ」の第二弾である本書を紹介します。
この作品は、前作と比べ、よりミステリー色が強い作品に仕上がっており、読者の年齢層は上がったのではないかと感じました。
文化祭の準備が盛んに行われている夏休み終盤、奉太郎たち古典部は、2年F組の入須先輩の誘いを受け、クラス制作の自主映画の試写会に行きます。しかし、映像は、密室で少年が殺害されたところで終わってしまいます。肝心の犯人、手段は不明のまま。
古典部のメンバーは、オブザーバーとして企画に参加し、結末を推理するが・・・
物語の途中で、入須先輩が奉太郎に向かって、スポーツのたとえを交えながらこう伝えます。
「誰でも自分を自覚するべきだ。でないと。・・・・・・見ている側が馬鹿馬鹿しい」
こう伝えられた奉太郎は、もしかして自分には探偵役の素質があるのではないかと思い、自信を持ち、見事結論を導き出します。しかし、この「にわか仕込みの自覚」は、すぐに崩れ落ちるのでした・・・
今回は、奉太郎が自己と向き合う描写が多くありました。自分では自分のことを「普通の人間」と思っているが、それは必ずしも、客観的な評価ではなく、実は自身の才能を自覚していないだけなのではないか。それは、才能がない、本当に平凡な人から見たら、とても「辛辣」なことなのではないか。
僕の周りにもそういう人がいますよ。「こいつめっちゃ才能あるな」って思うけど、当の本人は「運だよ運。」とか素で言っちゃうんですよねー。それって、実はとても残酷なことですよね。どんなに努力しても、才能ある人には勝てなくて、当の本人は、「運」とか言っちゃうんですもんねー。ほんと無自覚は罪だと思います笑。
今作も、200ページ前後と薄いので、すぐに読めちゃいます。また、ホームズの作品についても触れられているので、ホームズ好きの人とかは読んでみると面白いと思います。
余談ですが、アニメでは、酔っぱらった千反田さんが、とーってもかわいく描かれていますので、よかったら観てください!
P.S. 本当に関係ないのですが、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのアルバム「ソルファ」が、リテイクバージョンで発売されますね!先日「リライト(2016ver.)」のMVを観たのですが、すごくかっこよかったです!ぜひ皆さんも聴いてみてください!
パラドックス13(東野圭吾)読了
今日は、ドラマ化もされた「探偵ガリレオ」シリーズで有名な東野圭吾さんの「パラドックス13(サーティーン)」を紹介します。
この本は、中高時代の友人が「徹夜で読んじゃうほど面白い」といいながら貸してくれたので、大学から帰ってきてから読んでみました。
面白すぎて7時間ぶっ通しで読んじゃいました。はい。
ちなみにこの本、500ページ以上ある超大作なのですが、ページ数などアウトオブ眼中(死語)になるほどのめり込んでしまいました。それくらい面白いです。
「P-13現象」と呼ばれる現象が地球規模で起こることが、日本のトップ官僚たちに伝えられるところから物語は始まります。
「13時13分13秒から13秒間は注意するように」との指令が各官庁に通達されそれぞれ対応をします。
そして、運命の時間を迎えた後…
極限状態、法も秩序もない世界での人間の心理がリアルに描かれています。
そして、P-13現象とは何なのか?この世界の秘密とは?物語は終盤に残酷な真実を主人公たちに突きつけます。
僕は東野圭吾の本はわりかし好きで、「容疑時xの献身」や「天空の蜂」など、すごい勢いで読んでいた時期もあったのですが、この本は特に緻密に練られた作品で、かなり読み応えがありました。
ただ、気になる点が一つありました。それは、「筆者はこの作品を通して何を伝えたかったのか」ということです。
確かにすごく面白かったし、読み応えがあったのですが、筆者のメッセージ的ななにかを読み取ることが残念ながら僕には出来ませんでした。
まあこれは、何度か読み返すうちにわかってくるかもしれないので、今後機会があれば、また読み返そうと思います。
この本は長いので、「読書が好きな人」や「よく練られた、リアリティのあふれる作品が好きな人」におすすめです!
氷菓(米澤穂信)読了
今回は、「インシテミル」で有名な米澤穂信さんのデビュー作「氷菓」について書こうと思います。
「人が死なないミステリー」と評判の、青春学園ミステリーものです。
中部地方の架空の街、神山市に住む、省エネ主義の高校1年生「折木奉太郎」と、好奇心の亡者と揶揄されるお嬢様「千反田える」を中心とした「古典部」のメンバーが、学校内で起きる奇妙な物語を解き明かしていくというスタイルです。
実は、京都アニメーションによってアニメ化もされていて、僕もアニメを一通り観たところ、非常に面白かったので、原作にも手を出したという感じです。アニメのほうの感想も、後日書こうと思います。
まず、この本はめちゃくちゃ薄いです。200ページくらいなので二日くらいで読めちゃいます。価格も457円(税別)となかなかお手頃です。
肝心の内容ですが、アニメを観た後だったので、ストーリーも、オチも大体知っていたのですが、十分楽しめました。
まず、奉太郎の性格にわずかな違いがみられました。
アニメでは、気だるげで、省エネ感が前面に押し出されていたのですが、原作だと、もう少し前向きな性格に思えました。内心描写も多く、アニメでは描き切れなかった部分もしっかりと表現されています。
僕が最も魅了されたのは、やはり数々の名言でしょうか。
「ジョークは即興に限る、禍根を残せばウソになる」
「データベースは結論を出せない」
「いまのご時世、医者と教員と警官はあくびをしても叩かれる」
など、少しアイロニカルで、なおかつ真理を突いているような発言には、「確かになぁ」とか納得しながら、いちいち感動していました笑
あとは、個人的に「古典部」と「SOS団」が被って勝手に面白くなっていました(同じ京アニだし)。
この本は多少ラノベ調なので、「本を読むのが苦手な人」には特におすすめです。
あとは「灰色の、不遇な青春を送ってしまった人」にも、おすすめかもしれません笑
ガッツリミステリーが好きな人には、少し物足りないかも知れません。